■ジョブ型人事指針について
■ジョブ型人事指針について
(働き方ブログ)
みなさま、こんにちは。
内閣の「新しい資本主義実現本部」が中心になり閣議決定(2025年(令和7年)6月13日)された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」では、「人への投資・多様な人材の活躍推進」が実行計画の柱の一つとして挙げられています。
この「人への投資・多様な人材の活躍推進」の計画では、これらの施策があげられています。
1 三位一体の労働市場改革(リ・スキリング、ジョブ型人事、労働移動円滑化)に加速して取り組むとともに、副業・兼業の推進や同一労働同一賃金制の施行徹底も含め、多様な人材の活躍推進を進める。
2 社内外のスキル・賃金水準の可視化と効果的な情報提供、幹部候補人材の育成の仕組みの構築
3 働き方改革関連法施行後5年を踏まえた働き方改革の総点検
4 GX・DXによる就業構造変化の中での地方の産業人材の育成(産業人材育成プラン)等
ここでは、2024年(令和6年)8月28日に、内閣官房、経済産業省、厚生労働省が合同でまとめた「ジョブ型人事指針」について見ておきましょう。
この指針では、日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める必要があるとしています。
背景認識としては、従来の日本の雇用制度は、新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリングがいきるかどうかは人事異動次第で、従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムであったとされています。
そのため従来の制度の課題としては、ⅰ)最先端の知見を有する人材など専門性を有する人材が採用しにくい、ⅱ)若手を適材適所の観点から抜てきしにくい、ⅲ)日本以外の国ではジョブ型人事が一般的となっているため社内に人材をリテインすることが困難、といったことがあげられています。
そのような認識のもと、個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要があるとされています。
この指針では、20社について、個々の企業の特徴が分かるよう情報提供を行うものです。
(情報提供の観点)
ⅰ)制度の導入目的、経営戦略上の位置付け、
ⅱ)導入範囲、等級制度、報酬制度、評価制度等の制度の骨格、
ⅲ)採用、人事異動、キャリア自律支援、等級の変更等の雇用管理制度、
ⅳ)人事部と各部署の権限分掌の内容、
ⅴ)労使コミュニケーション等の導入プロセス、
など。
各社それぞれ異なる背景事情があるが、ジョブ型人事制度導入にあたっては、労使双方の理解を共通化していく導入ステップと、導入後の評価制度が重要となると考えられます。
一例ですが、株式会社日立製作所での導入ステップと評価制度を、見ておきましょう。
1 導入ステップ
(トップ主導の改革の推進と社員からの意見集約)
〇先述のとおり人材マネジメントの基盤は、グローバルで段階的に導入していった。海外のグループ会社では、「新たな人事制度の内容は一般的な実務である」とスムーズに受け入れられた一方、日立製作所本体や国内のグループ会社への導入に際しては、より丁寧な説明が求められた。当時のCEOが、「社会イノベーション事業をグローバルに進めていく前提で考えたときに、日本が変わっていかなければならない」との強いメッセージを発し、トップダウンで改革を進めてきた。
〇具体的には、重要な人事施策ごとにワーキンググループを作り、コミュニケーションの場を設けた。制度の内容や導入方法について、多方面から意見を集約する方法を採用している。
(労使コミュニケーション)
〇2017 年から、非管理職(組合員)のジョブ型人事の導入に向け、国内10万人の労働組合・組合員と継続的に議論を行ってきた。
〇コミュニケーションを開始した当初は、ジョブ型人事に対する誤解もあり、労使間で認識の相違も見受けられたが、何度もコミュニケーションを繰り返す中で、共通認識を築き、あるべき制度について議論を進めることができた。
〇2024 年 6 月より日立製作所本体における非管理職(組合員層)の職務給制度導入に際しては、労使それぞれの代表者による専門的な会議体にて、議論の機会を多く設けた。また、社員向けのコミュニケーションの機会も設け、会社側の情報発信を十分に行うことで、スムーズな制度移行を図ってきた。
(制度導入時のソフトランディング期間)
〇新たな等級を導入するに際して、報酬が下がる社員に対しては、一定の調整給を支給している。調整給は一定期間をかけて徐々に減額していく仕組みとしている。
2 評価制度
(グローバルパフォーマンスマネジメントの整備)
〇社員の評価制度においても、成果及び行動の目標管理と、面談でのフィードバックを基礎とした、グローバル共通の基盤を整備した。
〇中期経営計画に定めた全社目標は、社員一人一人の目標と連動させている。全社目標を下位組織の目標、個人目標へと落とし込むことで、個人のパフォーマンスを組織全体の目標達成につなげる狙いである。
〇また、コンピテンシー(社員の行動特性)の発揮を通じて、組織目標の達成に向けた行動の加速を目指す。創業の精神「和・誠・開拓者精神」に基づいた以下の3つの核となるコンピテンシーを評価の軸として規定している。これらのコンピテンシーは、役割に応じた具体的な行動をイメージできるよう、役割別(経営層、マネージャー、それ以外)に詳細な定義を設定している。
和(People Champion) 一人ひとりを活かす
誠(Customer & Society Focus) 顧客・社会起点で考える
開拓者精神(Innovation) イノベーションを起こす
〇社員のパフォーマンスマネジメントにおいては、日々の1on1を通じたコーチングとフィードバックを重視している。上司からの一方通行の指示だけでなく、部下からの改善提案や主体的発言を促し、双方向でのコミュニケーションを企図している。
〇グローバルパフォーマンスマネジメントでの評価結果は、全社共通の人材マネジメントプラットフォームに登録され、報酬へ反映されるほか、社員の今後の能力開発にも活かされていく。
いかがでしたでしょうか。
当事務所では、社員の笑顔溢れる職場づくりへのご支援をさせていただいております。
「人への投資・多様な人材の活躍推進」の基礎となる、人事制度、賃金制度の構築のことなら、どうぞ安心してご相談ください。
2025年9月30日
小林勝哉社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 小林勝哉
(参考)
・内閣官房 新しい資本主義実現本部
・内閣官房 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」
・内閣官房、経済産業省、厚生労働省 「ジョブ型人事指針」
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(1) 富士通株式会社
(2) 株式会社日立製作所
(3) アフラック生命保険株式会社
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