■高齢労働者の健康のために
■高齢労働者の健康のために
(働き方ブログ)
みなさま、こんにちは。
60歳以上の就業者数はこの20年連続で増加していて、70代でも仕事をすることは当たり前の時代になってきました。
高年齢同労者が仕事を継続するうえで「健康」はとても重要な課題です。
ここでは、2026年4月施行の改正労働安全衛生法から「高年齢者の労働災害防止の推進」の取り組みについてみていきましょう。
日本人の健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活でいる期間)は、男性73歳、女性75歳といわれています。
高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保措置の義務に加えて、70歳までの就業確保措置の努力義務が加わっています。
しかしながら、65歳を超えてくると「個人差」が大きくなってきます。
年齢だけでなく、本人の身体能力、認知能力、併存疾患、業務経験、社会的環境などを、様々に考慮して働き方や働く環境を考えていく必要が出てきます。
加齢による高齢労働者の身体機能や生理機能の低下のしかたには、均一的ではないという特徴があります。
つまり、機能低下しやすい機能とそうでない機能があるのです。
(1)視覚機能
高齢になると「暗い場所で見えにくい」「ぼやけてみえる」「細かい文字が見ずらい」といった困り具合をよく聞きます。
これは、暗いところで瞳孔が開かなくなり光量が得られない、水晶体が濁りピント調節機能が低下、といった加齢による機能低下が原因ですが、回復は見込めないため、職場の作業環境を調整することで対応する必要があります。
(2)聴覚機能
加齢とともに高音域から聞き取りにくくなることが多く、特に2,000Hz以上の高い音が聞き取りにくくなったり、重要な音が聞こえなくなったりします。
これは、聴覚に関連する細胞数の減少・低下などが原因で、視覚と同じく回復は見込めないため、職場の作業環境を調整することで対応する必要があります。
個人としても、聞き返す煩わしさからコミュニケーション不足や作業ミス・事故の原因となるため、補聴器の使用も視野に入れることも必要になってきます。
(3)筋力
主に加齢によって筋肉(骨格筋:体を動かす筋肉)の量が減少し、筋力と身体能力が低下した状態をサルコペニアと言います。
筋力の低下は、バランス能力も低下し転倒や墜落・転落といった事故のリスクとなります。
職場としても運動を推奨するような活動や栄養指導も必要になります。
(4)認知機能
知能の代表的な分類は、ホーンとキャッテルが提唱した、結晶性知能(crystallized intelligence)と流動性知能(fluid intelligence)があります。
研究によると、結晶性知能は高齢になっても維持され個人が長年にわたる経験、教育や学習などから獲得した言語能力、理解力、洞察力などは変化しないが、流動性知能は50歳代の後半頃から低下し加齢に伴う記憶力や処理スピードの低下を実感するようになるとされています。
2026年4月施行の改正労働安全衛生法を受けて、厚生労働省は2020年3月に策定された「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(通称エイジフレンドリーガイドライン)を改訂し、法律に基づく「高年齢者の労働災害防止のための指針」として公示しました。
指針には、身体機能が低下する高年齢者が安全に働き続けられるように施設・設備・装置等の改善を行うことや、業務内容を決める際には各高年齢者の健康や体力の状況に応じて適合する業務とのマッチングに努め、継続した業務の提供に配慮することなどが盛り込まれています。
特に、事業者が講ずべき措置については、しっかりとした対応が必要となっています。
指針の「事業者が講ずべき措置」では、①安全衛生管理体制の確立等、②職場環境の改善、③高年齢者の健康や体力の状況の把握、④高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応、⑤安全衛生教育、の5つが示されています。
1つめの安全衛生管理体制の確立等については、まず、経営トップが、高年齢者労働災害防止対策に取り組む姿勢を示し、高年齢者労働災害防止対策に関する事項を盛り込んだ安全衛生方針を表明することや、同方針に基づいて対策に取り組む組織・担当者を指定するなど実施体制を明確化することが明記されています。
安全衛生委員会等(安全委員会、衛生委員会も含む)を設けている事業場においては高年齢者労働災害防止対策に関する事項を調査審議することとされていますが、さらに「安全衛生委員会等を設けていない事業場においては、高年齢者労働災害防止対策について、労働者の意見を聴く機会等を通じ、労使で話し合うこと」が追記されています。
指針ではまた、高年齢者の身体機能等の低下等による労働災害の発生リスクについて、「災害事例やヒヤリハット事例から危険源の洗い出しを行い、当該リスクの高さを考慮して高年齢者労働災害防止対策の優先順位を検討すること」(リスクアセスメント)としたうえで、2006年に示された「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に基づく手法で取り組むよう努めると記載されています。
リスクアセスメントの結果もふまえて、指針で示す「職場環境の改善」や「高年齢者の健康や体力の状況の把握」などの措置を参考にして、優先順位の高いものから取り組む事項を決めることが必要です。
リスクアセスメントの実施に際しては、中央労働災害防止協会が開発・公表している「エイジアクション 100」のチェックリストの活用も有効です。
2つめの「職場環境の改善」については、まず身体機能が低下した高年齢者でも安全に働き続けることができるよう、「事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じること」と明記されています。
対策例を参考にしつつ、「高年齢者の特性やリスクの程度を勘案し、事業場の実情に応じた優先順位をつけて施設、設備、装置等の改善に取り組むこと」が掲げられています。
具体的な対策例では、通路を含めた作業場所の照度を確保しつつ照度が極端に変化する場所や作業の解消を図ることや、階段への手すりの設置、通路の段差の解消などが記載されています。
また、高年齢者の特性を考慮した作業管理については、「筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること」として、対策例を示しつつ、「高年齢者の特性やリスクの程度を勘案し、事業場の実情に応じた優先順位をつけて対策に取り組むこと」が掲げられています。
具体的な対策例では、短時間勤務や隔日勤務など、勤務形態や勤務時間を工夫して高年齢者が就労しやすくすることや、ゆとりのある作業スピードや無理のない作業姿勢などに配慮した作業マニュアルを策定・改定することなどが記載されています。
3つめの「高年齢者の健康や体力の状況の把握」については、まず「労働安全衛生法で定める雇入時及び定期の健康診断を確実に実施すること」としたうえで、特に高年齢者に留意すべき事項として、「健康診断の結果を高年齢者に通知するに当たり、産業保健スタッフから健康診断項目毎の結果の意味を丁寧に説明する等、高年齢者が自らの健康状況を把握できるような取組を実施することが望ましい」ことが明記されています。
また、労働災害防止の観点から、「事業者、高年齢者双方が当該高年齢者の体力の状況を客観的に把握し、事業者はその体力に合った作業に従事させるとともに、高年齢者が自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましい」としたうえで、「身体機能の低下は高年齢者に限られるものではないことから、事業場の実情に応じて青年、壮年期から体力チェックを実施することが望ましい」と記載されています。
4つめの「高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応」については、まず「健康や体力の状況を踏まえて必要に応じ就業上の措置を講じること」としたうえで、「高年齢者については基礎疾患の罹患状況を踏まえ、労働時間の短縮や深夜業の回数の減少、作業の転換等の措置を講じること」と記載されています。
高年齢者に適切な就労の場を提供するため、「職場環境の改善を進めるとともに、職場における一定の働き方のルールを構築するよう努めること」としたうえで、「高年齢者の業務内容の決定に当たっては、個々の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の観点を踏まえた適合する業務を高年齢者とマッチングさせるよう努め、継続した業務の提供に配慮すること」と記載されています。
このほか、「身体機能等の維持向上のための取組を実施することが望ましい」として、1988年に公示された「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」および2006年に公示された「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に基づき、「事業場として組織的に労働者の心身両面にわたる健康保持増進に取り組むよう努めること」と明記されています。
5つめの「安全衛生教育」については、まず「労働安全衛生法で定める雇入れ時等の安全衛生教育、一定の危険有害業務において必要となる技能講習や特別教育を確実に行うこと」として、十分な時間をかけて写真などの文字以外の情報も活用することなどが明記されています。
また、管理監督者等に対する教育について、「事業場内で教育を行う者や高年齢者が従事する業務の管理監督者、高年齢者と共に働く各年代の労働者に対しても、高年齢者の特性と高年齢者に対する安全衛生対策についての教育を行うことが望ましい」とし、高年齢者を支援する機器や装具に触れる機会を設ける重要性も示されています。
当事務所では、高齢・障害・求職者雇用支援機構の70歳雇用推進プランナーとして、多くの中小企業の高年齢者の戦力化のご支援を行っております。
高齢労働者が安全で健康に働ける措置を講ずることは、すべての労働者が安全で健康に働ける職場づくりに繋がります。
高齢労働者が健康でいきいきと長く働き続けられる職場を、ご一緒に作ってまいりましょう。
2026年7月9日
小林勝哉社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 小林勝哉
(参考)
・労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)
・労働安全衛生法及び作業環境測定法改正の主なポイントについて
・内閣府 令和8年版高齢社会白書
・エルダー 2026年4月号 特集 改正労働安全衛生法が施行 ―高年齢労働者の労働災害防止措置が努力義務に―
・高年齢労働者の労働災害防止措置が努力義務化
・改正高年齢者雇用安定法の概要