■精神障害の労災認定基準が改正されました

■精神障害の労災認定基準が改正されました
(働き方ブログ)

みなさま、こんにちは。
近年、コロナ禍をはじめとして経済・産業構造が変化する中で、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合が高くなっています。
また、業務による心理的負荷を原因として精神障害を発症し、あるいは自殺したとして労災認定が行われる事案も増加しています。
厚生労働省による令和4年労働安全衛生調査(実態調査)でも、「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある」と答えた労働者の割合は令和3年調査で53.3%であったものが、令和4年調査ではなんと82.2%と増加しています。

このような社会情勢の変化にあわせ、2023年9月に、精神障害の労災認定基準が改正されました。
多くの医学的知見が反映され、より現実に即した労災認定が図られるようになることが期待されます。
ここでは、改正に関する3つのポイントを見ておきましょう。

0・精神障害の認定のための要件はこれまでと変更ありません
【認定要件】
(1)認定基準の対象となる精神障害を発病していること
(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
(3)業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

<改正に関する3つのポイント>
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1・業務による心理的負荷(ストレス)評価表を見直しました
■具体的出来事を追加し、類似性の高い具体的出来事の統合等を行いました。
追加 顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた
追加 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した
統合 転勤・配置転換等があった
など

■心理的負荷の強度が「弱」「中」「強」となる具体例を拡充しました。
・パワーハラスメントの6類型すべての具体例、性的指向・性自認に関する精神的攻撃等を含むことなどを明記しました。
・一部の心理的負荷の強度しか具体例が示されていなかった具体的出来事について、他の強度の具体例を明記しました。

2・業務外で既に発病していた精神障害の悪化について労災認定できる範囲を見直しました
(変更前)
悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ業務と悪化との間の因果関係を認めていなかった

(変更後)
悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したと医学的に判断[*1]されるときには、業務と悪化との間の因果関係が認められる
[*1]本人の個体側要因(悪化前の精神障害の状況)、業務以外の心理的負荷、悪化の態様・経緯等を十分に検討します。

3・速やかに労災決定ができるよう必要な医学意見の収集方法を見直しました
主治医意見の他に専門医による医学的意見の収集を必須とする範囲等を見直したことで、労災決定までの期間を短縮できる事案が増加します。
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心の健康、つまり働く人のメンタルヘルスとは、何でしょうか。
世界保健機関(WHO)は、メンタルヘルスを「すべての個人が自らの可能性を認識し、生命の通常のストレスに対処し、生産的かつ効果的に働き、コミュニティに貢献することができる健全な状態」と定義しています。

厚生労働省の職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~では、労働者のメンタルヘルスケアは、以下の4つのケア方法を継続的かつ計画的に行なうことが基本とされています。

・セルフケア
労働者が自ら取り組むケア方法です。ストレスやメンタルヘルスに関する正しい知識や理解を深めることで、自身のストレスに気付き、適切に対処することがセルフケアです。なお、セルフケアの対象には管理監督者も含まれます。

・ラインケア
管理監督者(上司)が取り組むケア方法です。労働者にとって身近な存在である管理監督者が、職場環境の改善や労働者からの相談対応、職場復帰の支援などを行なうことがラインケアです。

・事業場内産業保健スタッフによるケア
事業場内の産業医や衛生管理者、保健師、心理カウンセラー、メンタルヘルスカウンセラーなどが、労働者や管理監督者に対してサポートやアドバイスを行なうことです。セルフケアやラインケアを効果的に実施できる企画の立案、個人の健康情報の取り扱いなど、心の健康づくりのための中心的役割を担います。

・事業場外資源によるケア
事業場外の機関・専門家によるサポートのことです。事業場外資源としては、病院や産業保健総合支援センター、EAPなどが挙げられます。情報提供や職場復帰における支援を受けたり、アドバイザーとしてサポート依頼をしたりするなど、専門家の力を活用します。

当事務所では、地元地域の産業医チームとも連携し、企業の従業員のみなさまの心の健康、つまり働く人のメンタルヘルスの向上に向けて、ご一緒に組織風土改革、メンタルヘルスケア制度の充実へのお手伝いをさせていただいております。
どうぞ、安心してご相談ください。

2023年9月27日

小林勝哉社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士 小林勝哉

(参考)
・厚生労働省 令和4年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況

・厚生労働省 精神障害の労災補償について

・厚生労働省 精神障害の労災認定基準を改正しました 改正に関する3つのポイント 2023年9月1日

・通達 心理的負荷による精神障害の認定基準について(令和5年9月1日付け 基発0901第2号)

・通達 心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について(令和5年9月1日付け 基補発0901第1号)

・厚生労働省 ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等

・厚生労働省 職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~ 2020/7

・厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳

・厚生労働省 ポジティブ・シェアリング 疲れやストレスと前向きにつきあうコツ

・厚生労働省 動画で学ぶ「メンタルヘルス教室」

・厚生労働省 こころのサインに気がついたら